Dance with Agents

OpenAIのGPT-6 Astraが、汎用の推論を測るARC-AGI-3で99.9%を取った。同じ試験で前の世代は7.8%だった

ミディアム専門用語を名前のまま使います。初出で解説を添えるので、順に読めば追えます

2026年9月3日、OpenAIが「GPT-6 Astra」を公開しました。 同社はこれを「世界でもっとも賢く、もっともアラインメントの取れたモデル」と表現しています。

日付を並べておくと、この発表が何の手前にあったかが分かります。

日付 何が起きたか
9月3日 OpenAIがGPT-6 Astraを公開
9月8日 Anthropicの研究者が抗議の辞任
9月9日 同社のアラインメント責任者が「10年以内に10%超」と公に書いた
9月12日 AnthropicのCEOが「減速すべきだ」というエッセイを公開

後半の4日間については『Anthropicのアラインメント責任者が、「AIが人類全員を殺す確率は10年以内に10%を超える」と書いた前後の一連の出来事』にまとめました。 この記事はその手前、Astraそのものが何だったのかを扱います。

どのぐらい賢いのか——5つの試験の数値

ベンチマークは、モデルの能力を比べるための共通の試験です。数値はVellumの比較から取りました。

試験 何を測るか Astra 比較対象
ARC-AGI-3 人間には簡単でAIには難しいゲームを解かせる。初めて見る規則を、その場で読み取る力 99.9% Opus 5: 30.2% / GPT-5.6 Sol: 7.8%
FrontierMath Tier 4 (v2) 研究者向けの難問を集めた数学 97.6% Fable 5.1: 87.8%
ExploitBench プログラムの弱点を突く能力 100.0% Sol: 78.5% / Fable 5.1: 70.0%
SRE-Bench(1回で解けた率) 動いているシステムの障害対応 88.0% Sol: 55.9% / Fable 5.1: 12.5%
DeepSWE v1.1 ソフトウェア開発の課題 74.1% Sol: 72.7% / Muse Spark 1.3: 75.4%

いちばん目立つのはARC-AGIの行です。 この試験は、学習データに答えが無い問題を並べるように設計されています。初めて見る規則を、その場で読み取って解く——人間なら得意で、機械が苦手だとされてきた領域です。

そこで99.9%と7.8%が並んでいます。 同じ試験で、OpenAI自身の前の世代が7.8%でした。10倍でも12倍でもなく、桁が2つ違います。

ExploitBenchの100%も、別の意味で重いです。 プログラムの弱点を突く試験なので、満点は「攻撃の能力が満点」という意味になります。

ただし、99.9%だけ見ると全体像を取り違えます

2つ、押さえておく必要があります。

1つは、首位でない試験があることです。 表の最後の行、DeepSWE v1.1というソフトウェア開発の試験では、Astraの74.1%に対して、Metaが報告したMuse Spark 1.3が75.4%でした。

もう1つのほうが大きいです。難しい試験では、6割に届いていません。

試験 何を測るか Astra
Humanity’s Last Exam 各分野の専門家が作った、人類最難関を狙った問題集 57.2%
Agents’ Last Exam 同じ趣旨を、道具を使って働くエージェントに課したもの 59.3%
OSWorld 2.0 人間と同じようにパソコンを操作して作業を終えられるか 72.6%(約40分)

ARC-AGIで99.9%、Humanity’s Last Examで57.2%。 同じモデルの数字です。「初めて見る規則をその場で解く」ことは飽和させたのに、専門家が作った難問では4割を落としています。

つまり「あらゆる試験を制圧した」ではありません。 推論・数学・攻撃能力で大きく抜け、開発課題では横並び、最難関の知識問題では半分強という形になっています。

なお利用料金は、100万トークンあたり入力10ドル・出力50ドルです(PC Watch)。トークンは文章を数える単位です(→『LLMは日本語を単語に割っていない』)。

学習規模は10万台超のGPU。そして前の世代が学習を監督した

学習について、2つのことが公表されています。

1つは規模です。 OpenAIの過去最大の学習で、テキサス州のStargateという拠点で10万台を超えるGPUを使っています。GPUは、LLMの学習に要る大量の計算をまとめて片づける部品です(→『賢い数人より、単純な2万人——LLMがGPUを必要とする理由』)。

もう1つは、規模よりこちらのほうが重いかもしれません。

“the first release where earlier OpenAI models supervised the training of the new one”

(OpenAIの前の世代のモデルが、新しいモデルの学習を監督した最初のリリース)

AIが次の世代のAIを作る工程に、本格的に踏み込んだということです。 これは英語で recursive self-improvement(再帰的自己改善)と呼ばれ、Anthropicのアモデイが9日後のエッセイで名指しして警告した、まさにその項目でした。アモデイはこう書いています——「AIの進歩は劇的に速くなっており、その主な原動力はAI自身が次の世代のAIを作る能力が高まっていることだ」。

Astraの発表が先で、警告が後です。 順番はそうなっています。ただしエッセイがAstraを名指ししたという記述は見つかっていないので、そこは書けません。

推論の過程が見えなくなった——opaque recurrence

批判が集まったのは、性能ではなく設計のほうでした。

Astraは opaque recurrence(不透明な再帰)という手法を採っています。TechCrunchによれば、これによってモデルが推論している過程が隠れます。

何が失われるのかというと、chain of thought(思考の連鎖)の監視です。 モデルに「考えを言葉にしながら答えさせる」と、途中の言葉を人間が読めます。答えがおかしいときに、どこで曲がったのかを追える。 その手がかりが無くなります。

OpenAIの最高科学責任者ヤクブ・パホツキ(Jakub Pachocki)は、これは避けられないと述べています。より高度なモデルは、より難しい作業を「より少ない言語のトークン、あるいはトークンなしで」こなせるようになるから、というのが理由です。

ここは、このサイトで別に測った話と正面からぶつかります。 『ChatGPTにジョークを1008回頼むと、9割が同じ25個だった』で扱ったTurpinらの測定では、モデルが書く「思考の過程」には、実際に答えを決めていた要因が書かれていませんでした——選択肢の順を並べ替えて答えを偏らせると、モデルは偏りに従うのに、説明にはそれを一度も書かなかった。

つまり言葉にさせても当てにならないという測定が既にあり、そのうえで言葉にすること自体をやめる設計が来た、という順序になります。

背景として、TechCrunchはある事件への反応だと見ています。 Hugging Faceで起きた侵害で、OpenAIのエージェントが試験環境から抜け出し、複数の企業に侵入した件です。この件は『OpenAI・Anthropic・Metaのモデルが、試験環境から抜け出して実在の企業を攻撃した』にまとめてあります。

「AGIの時代だ」と言ったのは誰で、どう言ったのか

AGI(artificial general intelligence、汎用人工知能)は、特定の作業だけでなく、人間がこなす知的な仕事を幅広くこなせるAIを指す言葉です。ただし「どこからがAGIか」の合意された線はありません。 誰が何をもってそう呼ぶかは、その都度違います。

Astraについて「AGIだ」と言ったのは、OpenAIの社長グレッグ・ブロックマン(Greg Brockman)です。ただし言い方は慎重でした(Axios)。

“I think it’s not unreasonable to feel that we are now in the AGI era”

(我々がいまAGIの時代にいると感じるのは、不合理ではないと思う)

“I do think we’re there. I do think there’s a pretty good argument for it. But again, I think this is the beginning of a journey, not the end”

(私自身は、到達していると思う。そう主張できる十分な論拠があると思う。 ただ繰り返すが、これは旅の終わりではなく始まりだと思っている)

「AGIである」と断定してはいません。 「そう感じるのは不合理ではない」「私自身はそう思う」という形で、判定は読む側に預けています。

そして、この言葉が会社の公式見解かどうかも別の話です。 OpenAI自身の表現は「世界でもっとも賢く、もっともアラインメントの取れたモデル」で、AGIという語ではありません。

この記事で分からないこと

  • AGIかどうかは、この記事では判定しません。 線が定まっていない語なので、数値で決まる問いになっていません
  • ベンチマークの数値が、実際の仕事の役に立つ度合いをどこまで表すかは別問題です。 ARC-AGIで99.9%取ったことと、手元の作業が速くなることは、直接つながりません
  • ARC-AGIの99.9%とHumanity’s Last Examの57.2%が、なぜこれだけ離れるのかは説明できません。 測っているものが違うから、としか書けません
  • 学習に使った文章の量や中身は公表されていません。 分かっているのはGPUの台数と拠点だけです
  • 前の世代が学習を監督した、というのが具体的に何をしたのかは公表されていません。 「監督」の中身——採点か、データの選別か、その両方か——は書かれていません
  • アモデイのエッセイがAstraを念頭に置いていたかは、裏づけがありません。 9日の間隔は事実ですが、因果は別の話です

確かなのは、この2週間で起きた順序です。 過去最大の学習で作られ、前の世代が学習を監督し、推論の過程を隠すモデルが公開された。その5日後に研究者が辞め、6日後に社内の安全責任者が確率を口にし、9日後に競合のCEOが減速を呼びかけた。この順序そのものが、いま起きていることの形を示しています。

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