画像生成AIに漫画の続きを描かせると、2コマ目で別人になっていることがあります。同じ商品を別の角度から描かせると、色も形も変わってしまう。絵の出来そのものより、同じものをもう一度生成することのほうが難しい。
これは頼み方が悪いからではありません。拡散モデルという仕組みからくる制約です。
画像生成AIが毎回ちがう顔を描くのは、出発点の砂嵐が毎回ちがうから
いま広く使われている画像生成は拡散モデル(diffusion model)という方式で、でたらめな点を敷き詰めた砂嵐から出発し、そこからノイズを引いていくと絵が現れるという作りになっています(『画像生成AIは、絵の描き方を習っていない』)。
この出発点の砂嵐は、生成のたびに新しく作られます。同じ言葉で頼んでも毎回ちがう絵が生成されるのは、ここが理由です。 裏を返すと、同じキャラクターを何枚も生成することは、放っておいて揃うものではありません。
同じ顔・同じ造形を保つ手段は、大きく2つです。 見本の画像を渡すか、モデルに覚え込ませるか。手軽なのは見本を渡すほう、強いのは覚え込ませるほうです。
手軽に済むのは、見本の画像をプロンプトと一緒に渡す方法
「こういう人です」という画像を、プロンプト(AIへの指示文)と並ぶもう一つの指示として渡すやり方です。訓練は要らず、画像が1枚あればその場で始まります。
これができるのは、言葉も画像も、いったん同じ形の数字に直してから絵を描く部分に渡されるからです。「猫」という語も、猫の写真も、数百個の数字の組に置き換えられます。言葉がそうなる仕組みは『言葉が数字になるまで』に書きました。
言葉を数字に直して送り込む道がすでにあるなら、その道に画像を送り込む部分を足すだけで済みます。
その役目を果たすのが、IP-Adapter(2023年)です。名前のIPは image prompt、つまり画像によるプロンプト。Adapterは、旅行先で使う電源プラグの変換アダプターと同じ意味です。本体を改造せず、あいだに挟むことで、本来は挿せないものを挿せるようにする。
実物は、追加で訓練された小さなファイルです。画像生成のソフトに、本体のモデルと並べて読み込ませて使います。読み込むまで、画像生成AIは言葉しか受け取れません。 読み込むと、プロンプトだけだった指示に、見本の画像を添えられるようになります。 本体の中身は書き換わりません。
本体を書き換えない、という点に利点があります。 画像生成では、1つの本体に追加の学習をさせて絵柄を変えたモデルが、いくつも作られています。本体を書き換えるやり方だと、モデルが変わるたびに作り直しになりますが、この部品はそのまま付け替えて使えると論文は述べています。
ChatGPTやGeminiのように会話の中で絵が生成される道具では、これがもっと簡単な形になっています。前に生成された画像が、そのまま次の指示の見本になるからです。Googleは画像生成の公式ドキュメントで、一貫性を保つには前に生成した画像を後続の指示に含めるとよいと案内しています。同じ文書によれば、Gemini 3系の画像モデルでは参照画像を最大14枚まで混ぜられ、そのうち人物は4〜5枚までとされています。
ただし揃う程度は面影が残るあたりまでで、編集を重ねるうちに特徴がだんだんずれていくことも、同じドキュメントに書かれています。
いちばん強く揃うのは、LoRAでモデルに覚え込ませる方法
面影ではなくそのキャラクターそのものを保ちたいなら、モデルの側に覚えさせることになります。
いま広く使われているのがLoRA(ローラ)です。Low-Rank Adaptationの略で、本体への変更を、ごく少ない数字の並びだけで言い表すという意味の名前です。本体には手を触れず、「本体をこう変えれば、そのキャラクターが描けるようになる」という変更分だけを、別の小さなファイルに書き出します。 描かせるときだけ本体に重ねて使い、外せば元の本体に戻ります。もともとは言語モデルを安く作り替えるために提案された手法(2021年の論文)で、それが画像生成に流用されました。
同じキャラクターを何十枚も生成する用途では、これがいちばん強い方法です。ただし手軽ではありません。画像を数十枚集め、それぞれに説明を付け、訓練を回すという前準備が要り、訓練にはそれなりの計算機と時間がかかります。誰でもすぐに実行できるものではない、という点が、見本を渡す方法との一番の違いです。
覚え込ませる手法にはDreamBooth(Google、2022年)もあります。数枚の画像から被写体を覚えさせられますが、モデル本体ごと作り直すので、出来上がるものは本体と同じ大きさになります。手元で回すには重すぎるため、いまはLoRAのほうが選ばれています。
一貫性の手段と混同されやすいものが、2つある
シード(seed、種)は、砂嵐の作り方を決めている数字です。同じシードと同じプロンプトが与えられれば、同じ絵が戻ってきます。ただしプロンプトを1語変えると、もう別人です。 これは同じ絵の再現であって、同じキャラクターを別の場面に登場させることではありません。
ControlNet(2023年)も、一貫性の手段としてよく並べられます。これもIP-Adapterと同じく、本体に読み込ませて使う追加のファイルです。輪郭線、棒人間のような骨組み、どこが手前でどこが奥かを表した図——こうした下敷きを先に渡しておくと、モデルはそこからはみ出さないように描きます。ただしそろうのは姿勢や構図で、顔立ちや服の柄ではありません。別の軸をそろえる道具です。
揃う強さと、始めるまでの重さは引き換えになっている
| 方法 | 始めるまで | 揃う程度 |
|---|---|---|
| 見本の画像を渡す(IP-Adapter、会話型の参照画像) | 画像1枚から、その場で | 面影が残る。重ねるとずれる |
| LoRAで覚え込ませる | 数十枚の画像、説明付け、訓練 | そのキャラクターとして揃う |
どちらも、毎回ちがう砂嵐から始まるという前提を、外から押さえ込む工夫です。 何枚必要かで、押さえ込む力をどこまで強くするかが決まります。