LLMの仕組みを調べると、必ず2017年の論文Attention Is All You Needに行き着きます。ここで疑問が生じます。この分野は動きが速いのに、9年前の論文をいま読む意味があるのか。
2026年8月の時点で確かめました。答えは「骨格はそのまま。中の部品はほぼ全部が入れ替わった」です。
骨格を押さえる場所としては、いまも2017年の論文で足ります。 そのうえで、何が入れ替わったかを見ていきます。
変わっていない骨格
まず、いまのLLMでも当時のままの部分です。仕組みそのものは『LLMの中でやっていることは2つだけ』に書きました。
- 語を数値の並びに変えて扱う
- 同じ形の層を何十枚も積み、順に通していく
- 1枚の層は「周りの語から混ぜる → 掛ける数で動かす → 桁をそろえる」
- 混ぜる配分は、クエリ・キー・バリューの3つで決める
- その組(ヘッド)を、1つの層に何組も並べる
- 各層で、入ってきた値を出口で足し戻す
この6つは、いまのモデルでもそのまま使われています。
差し替わった部品
一方で、中身はほとんど入れ替わりました。LLaMA論文は、元のTransformerから変更した点を3つ明記しています。
| 2017年の論文 | いま | どこから取り入れたか | |
|---|---|---|---|
| 桁をそろえる場所 | 層の出口 | 層の入口 | GPT-3 |
| 桁をそろえる方式 | LayerNorm | RMSNorm | Zhang & Sennrich(2019年) |
| 掛ける数の計算 | ReLU | SwiGLU | PaLM/Shazeer(2020年) |
| 語順の与え方 | 入口で位置の情報を足す | RoPE(各層で回す) | GPTNeo/Su et al.(2021年) |
4行目に注目してください。論文の原文は「絶対的位置埋め込みを削除し、ネットワークの各レイヤーに回転位置埋め込み(RoPE)を追加」です。2017年の部品を、名指しで削除しています。
語順をどう伝えるかは、Transformerの要の1つでした。並べ替えても同じ扱いになってしまう仕組みなので、位置の情報を別に足す必要がある(→『「社長が部長を解雇した」と「部長が社長を解雇した」が、ほとんど同じ文として扱われた』)。その要の部分が、場所も方式も入れ替わりました。
骨格そのものに触れた変更は3つ
部品の差し替えとは別に、形そのものに手が加わったものが3つあります。
① 半分になった
2017年の論文が扱っていたのは翻訳でした。そのため読み取る側(エンコーダ)と書き出す側(デコーダ)の2つがあり、2つで1組でした。
いまのLLMの主流は、書き出す側だけです。文章を作るのが仕事なので、読み取る側の役目は、書き出す側が入力ごと読むことで足りる。骨格が半分になりました。
② 語順の扱いが、入口から各層へ移った
上のRoPEです。当時は入口で1回だけ位置の情報を足していました。いまは各層で扱います。場所も方式も変わったので、部品の差し替えというより形の変更にあたります。
③ 毎回すべてを動かさない作りが現れた
MoE(英語では Mixture of Experts)と呼ばれます。層の中に担当違いの部品を何組も用意しておき、語ごとに一部だけを働かせるという仕組みです。
これは前提を1つ崩します。「モデルの中の数値が、毎回すべて使われる」が成り立たなくなるからです。
ただし手元で動かすときのメモリの見積もりは変わりません。 どの部品が呼ばれるかは事前に決まらないので、結局ファイル全体をメモリに載せておく必要がある(→『手元のMacでLLMを動かせるかどうかは、メモリの量で決まる』)。変わるのは1語あたりの計算量のほうです。
Attentionを使わない方式も現れている
代表がMambaをはじめとする状態空間モデルです。
Attentionは、語が増えるほど組み合わせが増えて計算が重くなります。そこを別の仕組みで置き換えようという試みで、IBMの解説によれば、Attentionと状態空間モデルの層を混ぜたモデルが実用化されています(Jamba、IBM Granite 4.0など)。
ただし現状は置き換えではなく、混ぜる形です。主流はTransformerのままで、2026年8月の時点でここが逆転した様子はありません。
まとめ
飛躍の度合いを、4段階で整理します。
| 状態 | |
|---|---|
| 形(何を積み、1枚が何をするか) | 2017年のまま |
| 各部品の中身 | ほぼ全部が差し替え済み |
| 前提の一部(すべての数値が毎回動く) | MoEで崩れた |
| Attentionを使わない道 | 存在するが、まだ主流ではない |
骨格の中で正常に進化してきた、というのが実態に近い。 一部に構造の改変があり、Attentionを使わない試みも始まっていますが、中心はまだ2017年の論文の上にあります。
なので、仕組みを理解したい人が最初に押さえる場所は、いまも変わりません。 ここで挙げた差し替えは、骨格を分かったあとで足す知識です。