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22世紀生まれのドラえもんを待たずに、「ことばで頼める機械」が現れた

ことばで頼むと、意図を汲んで、代わりに動いてくれる機械。日本で育った人の多くは、その姿を鉄腕アトムやドラえもんで知ります。設定では、ドラえもんは22世紀・2112年生まれのロボットです。 ところが「ことばで頼める」という一点に限れば、現実の機械がそれを待たずに追いつき始めています。


ことばの通じるロボットは、70年以上前からの夢だった

この夢の系譜は、ドラえもんよりさらに前から始まっています。1952年、手塚治虫の「鉄腕アトム」の連載が雑誌『少年』で始まりました。ことばを話し、人と心を通わせるロボットです。1963年には日本最初のテレビアニメシリーズにもなり、この姿はお茶の間にまで届きました。作中でアトムが誕生するのは、2003年4月7日という設定です。

その17年後、ドラえもんの連載が1970年1月号の学年誌から始まります(雑誌が書店に並んだのは1969年の暮れ)。机の引き出しから出てきて、ことばで話が通じて、困りごとを一緒に片づけてくれるロボット。こちらの設定は、22世紀・2112年生まれです。

以来70年以上、この国では何世代もの子どもが、「ことばの通じる機械」の姿をアトムとドラえもんで刷り込まれて育ってきました。

「ことばで頼める機械」は、2022年に現実になり始めた

2022年11月30日、ChatGPTが公開されました。ふだんのことば——日本語でも——で頼むと、答えを文章に組み立てて返してくる機械に、誰でも触れられるようになりました。その後に広まったAIエージェント(答えを返すだけでなく、パソコンの中で実際にファイルを作ったり、プログラムを書いて動かしたりするAI)は、会話の相手であるだけでなく、作業の分担相手にもなっています。

もちろん、アトムやドラえもんが来たわけではありません。体はなく、平気で間違えることもあり、感情を持っているわけでもありません。それでも「ことばで頼むと、意図を汲んで動く」という一点に限れば——現実は、アトムの誕生日(2003年)には19年間に合わず、ドラえもんの誕生日(2112年)よりは90年早く着いたことになります。

コンピュータの80年には、3つの大きな飛躍があった

なぜ急にそんなものが現れたのか。振り返ると、飛躍は3段に積み重なっています。

1段目は、計算する機械の登場です。 『17,468本の真空管を積んだ部屋が、コンピュータの始まりだった』で扱った1946年のENIACのように、部屋ひとつぶんの機械から、計算という仕事が人の手を離れ始めました。

2段目は、機械どうしがつながったことです。 『インターネットの最初のメッセージは、2文字で途切れた「lo」だった』で扱った通り、1969年10月29日、ARPANET(インターネットの祖先にあたる実験ネットワーク)で最初の通信が行われました。そこから四半世紀ほどかけてインターネットが世界に広がり、1990年代にWebと検索エンジンが現れて、世界中の情報の「ありか」に、誰でもたどり着けるようになりました。

3段目が、ことばの通じる機械です。 LLM(大規模言語モデル。いまのAIの中核にある、ことばを扱う仕組み)は、ネット上に蓄積された膨大な文章から学び、大量のコンピュータの計算力で動いています。つまり3段目は、1段目の「計算」と2段目の「接続と蓄積」の上に建っています。飛躍はどれも、前の飛躍を土台にしています。

検索は「ありか」を教えた。LLMは、答えの形まで組み立てる

2段目と3段目の違いは、日々の実感に置き換えるとはっきりします。

検索が運んでくれるのは、情報の「ありか」までです。そこから先——ページを開いて読み、要るものと要らないものを選り分け、自分に分かることばに噛み砕き、知りたかった形に組み立て直す——は、ずっと人の仕事でした。

LLMは、その後半を引き受けます。知りたいことを、知りたい形で——「専門用語を使わずに」「表で」「歴史の順に」——組み立てて返してきます。分からなければ、分からなかった箇所だけを聞き直せます。

引き換えに、新しい注意もひとつ要ります。LLMは、間違ったことも同じ調子で流暢に答えます。 大事なことを元の情報で確かめる仕事は、人の側に残っています。

それでも管理人は、ここに検索の登場以来の——あるいはそれ以上の——変化の兆しを感じています。これは統計で裏づけられた話ではなく、一個人の実感です。ただ、「欲しい情報が、欲しい形で得られる」という体験自体は、すでに日々のものになっています。同様の感覚を持つ人は、増えているのではないかと思います。

ドラえもんの連載開始と、インターネットの最初の通信は、同じ1969年だった

最後に、符合をひとつ。ドラえもんの1970年1月号が書店に並んだのは、1969年12月。ARPANETの最初の通信は、その2か月前の1969年10月29日でした。同じ年には、『UNIXという1つの土台の上に、いまのiPhone・Mac・Linux・Androidが建っている』で扱ったUNIXも書き始められています。

ことばの通じるロボットという夢が描かれ始めたのと同じ年に、その方向へ向かう土台も、誰に気づかれることもなく動き始めていた。もちろんただの偶然ですが、半世紀後から振り返ると、できすぎた符合です。

まとめ

  • ことばの通じるロボットの夢は、1952年連載開始の鉄腕アトムから続いている。アトムは作中で2003年生まれ、1969年の暮れに連載が始まったドラえもんは2112年生まれの設定
  • 2022年11月のChatGPT公開以降、「ことばで頼むと、意図を汲んで動く」機械が現実になり始めた。体も感情もなく、間違いもするが、アトムには19年間に合わず、ドラえもんよりは90年早い
  • 土台には3つの飛躍がある。計算する機械(1946年〜)、つながる機械(1969年〜)、ことばの通じる機械(2022年〜)。どれも前の飛躍の上に建っている
  • 検索は情報の「ありか」まで運んだ。LLMは、読む・噛み砕く・組み立てるまで引き受ける。ただし間違いを確かめる仕事は、人の側に残っている

ENIACから数えて80年。3段目の飛躍は、まだ始まって数年しか経っていません。

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